平井銀二が「銀」なら、「金」は誰なのか。
もう一人の主人公は森田鉄雄であり、最初から金と呼ばれているわけではない。
森田は絵画をめぐる勝負で大金を得た後、銀二を超える人間になりたいと語る。
そのとき森田が望む呼び名が「金」だ。
この言葉を出会いの場面とつなぐと、森田の望みが、金を持つことから銀二のような力を持つことへ広がっているのが分かる。
『銀と金』は、銀二と金銭の物語として読めると同時に、銀二を超える「金」になりたい森田の物語でもある。
森田が最初に見たのは、銀二の十億円だった
銀二との出会いで森田が目にする金は、自分の手に入る金ではない。
森田が運ぶ仕事をした段ボール箱には、十億円が詰まっている。
日当を目当てに引き受けた仕事の中で、森田は自分の暮らしから遠く離れた額を突きつけられる。

その後、金を借りに来る銀行の支店長たちは、銀二を銀王と呼んで頭を下げる。
森田の前で銀二は、相手を脅すことも、励ますこともできる。
大金を持っているだけでなく、その金を使って人を動かしているのだ。

森田が惹かれるのは、札束と、それを自在に扱う銀二の姿である。
銀二の仲間になれば、これまで金を失う側だった自分も、大金をつかむ側へ進める。
出会った頃の銀二は、森田にとって金のある世界へ連れていってくれる人物だった。
二億円を得た後も、森田の望みは終わらない
絵画をめぐる勝負では、森田は自分で儲け話を作り、画商を相手に大金を手にする。
出会いの翌日には銀二の仕事に驚いていた森田が、自分の工夫で勝負を仕掛けるようになった。
目の前にある二億円を、森田は自分の金として喜ぶ。

森田は、この成功の後に川田へ、もう一つの望みを話す。
銀と呼ばれる知り合いを超え、金と呼ばれたいという望みである。
銀二から与えられた課題を果たした森田は、銀二を追い越したいという目標を口にしている。
ここでの「金」は、すでに稼いだ二億円を指していない。
森田自身がどういう人間になりたいかを表す呼び名だ。
銀二の持つ金に驚いていた森田が、今度は銀二本人を目標にしている。
この変化によって、「銀と金」という言葉には、二人の関係を表す意味が生まれる。
銀二を超えるには、金をつかむだけでは足りない
森田は、銀二を超えるには金をつかまなければならないと考えている。
しかし、森田は続けて「それだけじゃダメ」と言う。
さらに、金を得た後、その向こう側にある世界を見てくる必要があると語る。

森田の考えでは、銀二は欲望の世界を突き抜けた先を何度も見ている。
その経験が銀二のスケールにつながり、大金を動かす力になっている。
森田は、自分もそれを見たいと望んでいる。
金を得る前の森田には、十億円という額が驚きだった。
自分で二億円を得た森田は、今度は銀二がどうしてあれほど大きな勝負を動かせるのかを考えている。
欲しいものが増えたというだけでなく、自分が目指す人物の力を、経験の違いから捉えようとしているのだ。
この場面での「金」は、森田が銀二を超えたという評価ではない。
森田が自分で掲げた、これから目指す呼び名である。
二億円を稼ぐ成功は、その望みを語り出せるところまで森田が成長したことを示している。
銀二への憧れが、森田自身の目標になる
森田は銀二の金に魅せられ、その仕事を知り、自分でも大金を手にする。
そこで満足せず、銀二を超える「金」になりたいと望む。
金を持つ人への憧れが、自分もその人以上の力を持ちたいという目標へ変わっていく。
『銀と金』の「金」には、二人を引き合わせる金銭と、森田がなりたい自分が重なる。
すでに銀王と呼ばれる銀二に対し、森田の「金」はまだ望みの中にある。
この二つの言葉を並べると、森田が欲しがっているのは銀二の金だけでなく、銀二以上の存在になることなのだと分かる。


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