『地獄先生ぬ~べ~』の口裂け女には、サメのような牙ではなく、人間らしい歯が並んでいます。
作画を担当する岡野剛さんは、人間の歯を観察し、口角の裂け目も描き込んで、現実に現れそうな怖さを目指していました。
その描き方には、子供の頃に読んだ漫画への不満がつながっています。
子供の頃、牙を見た途端に怖くなくなった
岡野さんが小学生だった頃、口裂け女の噂が学校でも広がっていました。
電車通学をしていた岡野さんは、一人で駅へ向かうのが怖かったと振り返っています。
ところが、ある漫画で口裂け女を読んだときには、登場する姿を見て怖さが消えてしまったそうです。
それまで緊張して読んでいたのに、口の中にはサメの牙のようなギザギザの歯が描かれていました。
人間の顔に起きた異変だと考えていた岡野さんには、その歯が不自然に見えたのです。

この体験を語った2021年のインタビューで、岡野さんは、自分が子供だった頃と同じくらいの年齢の読者を怖がらせたいと話しています。
自分が怖かった噂と、漫画を読んで怖くなくなった経験の両方が、描くときの手がかりになっていました。
大きく裂けた口にも、人間の歯を残す
『ぬ~べ~』で口裂け女を描く際、岡野さんは実際の人間の歯をよく観察しました。
口角が裂けた部分も細かく描き込み、人間らしさを保っています。

顔の幅に近いほど口が開いていても、前歯の形には見覚えがあります。
岡野さんが狙ったのは、異形になった顔にも人間の形を残すことで、その存在を現実に近づけることでした。
口裂け女だけでなく、岡野さんは人食いモナリザなど、人間をもとにした妖怪の歯にもこだわったと説明しています。
人食いモナリザの怖さは、諫山創にも届いた
人食いモナリザは、『進撃の巨人』を描いた諫山創さんにも強い印象を残しました。
諫山さん自身のインタビューによると、小学生の頃に読んで、トイレへ行けなくなるほど怖かったそうです。
諫山さんは、読者にも自分が受けたような強い衝撃を与えたいという気持ちを、漫画を描く動機として語っています。

さらに諫山さんは、巨人を描く際の手本が人食いモナリザだったとも説明しています。
ただ、そのつながりに気付いたのは、『進撃の巨人』の連載が始まってから3~4年後でした。
自分の中に巨人を描く手本がある理由を考えたとき、子供の頃に読んだモナリザに思い当たったのです。
岡野さんも、諫山さんが人食いモナリザから影響を受けたと知り、自分が込めた怖さが伝わったことを喜んでいます。
岡野さんが目指した怖さは、一人の読者に届き、その読者が漫画家になってからも残っていたのです。
まとめ
岡野さんは、子供の自分が怖がる姿を考え、人間らしい歯を残しました。
その怖さを受け取った諫山さんも、読者を強く驚かせる漫画を描こうとしました。
二人の話をたどると、怪談の怖さが読み終えた後も記憶に残り、次の作り手が描くものまで変えていく、そのつながりが見えてきます。

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