『銀と金』森田のポーカー逆転――西条が「役なし」と信じた理由

森田に配られたスペードの6・7・8・Jとハートの9 銀と金
『銀と金』福本伸行・ポーカー編。

西条は、森田の手札を知っているつもりだった。
だから、手札を比べる勝負になれば、自分が勝つと考えられた。
ところが、森田が開いたのは、西条のツーペアを上回るフラッシュだった。

森田が利用したのは、西条たちが捨て札をのぞく仕組みである。
本当に捨てたカードの下へ別のカードを重ね、西条に違う手札を計算させた。
西条の情報網を壊さずに、そこへ嘘の情報を流したところに、この逆転の面白さがある。

西条は、手札を直接見なくても役を計算できた

バーテン、岡部、西条へとカードの情報が伝わる仕組みを見抜く森田
『銀と金』福本伸行・ポーカー編。

西条側のイカサマは、カウンター越しにカードを見るところから始まる。
バーテンは、最初に配られたカード、交換のために捨てられたカード、新しく配られたカードを確認する。
グラスやボトルの位置で出した合図を岡部が受け取り、岡部が西条の背中をたたいて伝える。

西条本人がバーテンの合図を見続けると、その目の動きが森田に気づかれるおそれがある。
そこで岡部を間に入れ、西条は森田と向き合ったまま情報を受け取る。
仕組みを見抜くまでの森田は、相手に手札を読まれながら勝負していたことになる。

この情報網で大事なのは、森田の手元を最後まで見なくても、交換後の手札を割り出せることだ。
最初の五枚から捨てた一枚を引き、新しく配られた一枚を足せばよい。
森田は、その計算の途中にある「どのカードを捨てたか」を狂わせる。

ハートの9を捨て、スペードのJを捨てたと思わせる

森田に配られたスペードの6・7・8・Jとハートの9
『銀と金』福本伸行・ポーカー編。

森田に来たのは、スペードの6・7・8・Jと、ハートの9だった。
ハートの9を交換し、代わりにスペードを引けば、五枚のマークがそろうフラッシュになる。
一方、スペードのJを交換して10を引けば、6から10まで数字が並ぶストレートになる。
どちらのカードを残すかで、狙う役が変わる手札である。

森田が実際に捨てたのはハートの9だった。
ただし、森田は別に用意したスペードのJを、その9の表に重ねて伏せる。
手汗で二枚を貼りつかせ、普通に見ると一枚に見えるようにした。

ハートの9の下へ別のスペードのJを重ねた目隠しを説明する森田
『銀と金』福本伸行・ポーカー編。

Jの絵柄が下側を向いているため、カウンター越しに見るバーテンにはJが見える。
その上にあるハートの9は隠れる。
バーテンは、森田がフラッシュを狙う9の交換ではなく、ストレートを狙うJの交換をしたと判断する。

交換で森田へ配られたスペードのQ
『銀と金』福本伸行・ポーカー編。

新しく配られたカードはスペードのQだった。
Jを捨てたと思っている西条側には、森田の手札が「スペードの6・7・8・Q、ハートの9」と計算される。
マークも数字もそろわず、役はない。
しかし、実際の森田はハートの9を捨て、最初のJを手元に残している。
本当の手札は「スペードの6・7・8・J・Q」で、フラッシュが完成していた。

西条たちは、森田に配られたQを見落としたわけではない。
捨て札をJだと思い込んだため、正しく見えたQから、間違った結論を出してしまったのである。

タバコの葉は、これからのすり替えしか防げない

西条は、役がないはずの森田が勝負を受けることを不審に思う。
西条の計算では、森田がフラッシュに変えるためには、手元にあるはずのハートの9と、捨てたはずのスペードのJをすり替える必要があった。
そこで西条は、捨て札の上にタバコの葉を置く。
森田が捨て札を動かせば、葉が崩れて分かるようにしたのだ。

この対策は、森田がこれから捨て札を取り戻すなら役に立つ。
だが、森田のJは最初から手元に残っており、交換の時点で目隠しも済んでいる。
森田は、タバコの葉を動かさなくても、持っている五枚を開くだけで勝てる。

西条は、森田が何かを企んでいることには気づいていた。
それでも、「森田には役がない」という前提は疑わず、その手をどう変えるつもりなのかと考えた。
すり替えを防いで安心した西条は、すり替えそのものが要らない手札を前にしていた。

森田のフラッシュを見て動揺する西条
『銀と金』福本伸行・ポーカー編。

目隠しのJは、森田の役を強くしていない

森田は、別に用意したJを使っている。
ここで区別したいのは、そのJを手札に足したのか、捨て札を隠すために使ったのかという点だ。
森田は、正規のカードを一枚捨て、一枚受け取っている。
フラッシュを作ったJは最初に配られたカードであり、目隠し用のJは勝負する五枚に入っていない。

森田自身も、この目隠しを「防御の行為」と説明する。
役を作るカードを外から加えたのではなく、のぞき見される捨て札を覆ったという説明である。
森田は交換でスペードを引く必要があり、目隠しだけで強い役を生み出したわけではない。

西条のイカサマは、森田の手札を知るためのものだった。
森田はその仕組みを利用し、西条が弱い手札だと信じて勝負に乗るようにした。
タバコの葉まで置いて備えた西条が敗れるのは、森田の動作を警戒しながら、自分に届いた情報のほうは疑わなかったからだ。

賭け金の積み合いについては、青天井ポーカーのルールと森田・西条の二戦で詳しく扱っている。

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